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葛城簡易裁判所 昭和36年(ハ)9号 判決 1963年3月05日

判   決

大和高田市大字高田二九番地の一

原告

大和高田市

右代表者大和高田市長

名倉仙蔵

右指定代理人

迫田繁一

右同

金子孝行

右訴訟代理人弁護士

島秀一

大和高田市大字高田一四六〇番地

被告

宮原ハルエ

右訴訟代理人弁護士

長山亨

右当事者間の昭和三六年(ハ)第九号建物収去、土地明渡請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告に対し別紙目録記載の建物を収去して同目録記載の土地を明渡せ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「(一) 別紙目録記載の土地(以下本件土地という。)を含む大和高田市大字高田一四六〇番地溜池一町四反二六歩外堤塘一反六畝二止は原告の所有するところのものである。

(二) 右溜池は通称馬冷池といい、原告は右池の区域をもつて公園―馬冷池公園―を設置し、昭和三一年都市公園法(同年法律第七九号)の施行後は、同法に基づき右公園を原告の都市公園としてこれを管理しているもので、従つて本件土地を含む右池は原告の営造物である右公園を構成する物件として、所謂公共財産に属するものである。

(三) 被告は別紙目録記載の建物(以下本件建物という。)を昭和三一年一月二七日、前所有者泉尾種治より買受けその所有権を取得し、以後これを所有し、その敷地である本件土地を占有している。(なお、被告は本件建物を取得後一部これに附加して増築工事をなした。)

(四) 元来本件建物は右池の水面に浮かぶ所謂かき舟であつたものが、何時しか池底に定着したもので、原告は昭和二一年以来その所有者に期間は一年毎とし、その更新を繰り返してその敷地の使用を許してきたもので、被告が本件建物を取得した後も、同様その使用を許し、更新の結果、昭和三五年四月二〇日、更めて被告と本件土地を被告に、期間は同年五月一日より昭和三六年四月三〇日までの一カ年使用料は一カ年金五、四三〇円としこれを前払する、原告において必要のため返還を要求したときは右期間中といえども本件建物その他、本件土地上の工作物を撤去して原告に本件土地を返還することとする、との条件でこれを使用させる旨の契約を結んだ。

(五) 本件土地の右使用関係は建物の所有を目的とするものではなく、民法所定の賃貸借でもなく、もとより借地法の適用外のものであつて、一種の無名契約であり、原告が昭和三五年従来の慣例を明らかにして制定公布した「大和高田市有財産及び営造物に関する条例」第一六条第一項第六号、第一三条、第一九条の適用される性質のものである。

(六) ところで、原告はその事業計画により、市民の保健体育施設(市民体育館)を右原告所有地に設置することになり、本件土地もまたその環境整備のため原告において使用する必要が生じた。

(七) そこで原告は右使用条件に基づき、昭和三五年一一月七日内容証明郵便をもつて、被告に対し本件土地についての右契約を解除する旨通知し、本件建物の撤去方を要求し、右書面はその頃被告に送達され、右契約は解除されるに至つた。

(八) 仮に右契約解除の意思表示の効力がないとしても、右契約は昭和三六年四月三〇日限りをもつて、その契約期間が満了し、原告は被告にその更新を拒否する旨の意思表示をした。而して原告には前記の如き本件土地を必要とする理由があり、右更新拒絶につき正当事由があるというべきであるから同日限り、右契約は期間満了により終了した。

(九) 仮に本件土地の右使用関係が、建物所有を目的とする賃貸借契約であつてもこれは一時の賃貸借であり、従つて、昭和三六年四月三〇日限り、契約期間満了により終了した。

(十) 仮に然らずとするも、本件土地は原告の計画せる市民体育館の計画敷地内で植樹用の土地、道路及び広場に供する土地として、右計画上欠くべからざる用地であつて、右工事も被告の本件建物の存在のため、未だに完工出来ず池の水のため、敷地の端が崩れ落ちる危険もあり、かつ、本件建物は板葺のバラック式建物で収去も容易であること等に鑑みれば、原告には本件土地の賃貸借を解約するについての正当事由が存するから、本訴において被告に対しこれが解約の意思表示をなす。」

と陳述し、被告の主張に対し

「原被告間の本件土地についての使用関係については借地法の適用はないのであるから、被告は原告に対し本件建物の買取請求権を有するものでもなく、またその解約等につき被告は原告に対し財産上の補償請求権も有しないのであつて、原告の前記条例の規定はもとより有効であり、いずれにせよ被告の主張はその理由がない。」

と述べ、立証(省略)。

被告訴訟代理人は

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求め、答弁として

(一) 原告の請求原因事実のうち(一)の事実、(三)の事実、(四)の事実中被告が本件建物の所有権を取得後原告からその敷地である本件土地の使用を許された事実及び(七)の事実中原告から被告に対しその主張の如き内容の書面が送達された事実は認める。

(二) 然しながら原告の請求原因事実のうち(二)の事実は争う。本件土地を含む前記土地は原告の普通財産に属するものである。また、(五)の事実中本件土地の使用関係の点も否認する。右使用関係は、私法上の賃貸借関係である。次に(六)の事実中本件土地を原告が、その市民体育館の環境整備のため必要とする事実、(八)(九)の各事実及び(十)の事実中原告に原被告間の本件土地についての賃貸借を解約する正当事由が存するとの事実はいずれも否認する。」と述べ、更に

「(一) 本件土地は地方公共団体たる原告の普通財産であり、その管理処分については、現行法上特別の規定はなく、これが貸借については借地法等の規定が適用されるものである。

(二) また、仮に本件土地が原告の所謂行政財産に属するものであつても、前項同様の理由により、これが管理処分については借地法等の規定が適用される。

(三) 而して、被告は、本件土地を原告から建物所有の目的で賃借しているもので、その関係は通常の私法上の賃貸借関係である。

(四) 従つて右本件土地の使用関係については借地法が適用されるところ、同法第一一条の規定に鑑みれば、原告主張の本件土地の使用条件中、使用料(賃料)を除くその余の条件は無効というべく、それ故本件土地の賃貸期間はその定めがないものとして、少なくとも本件建物が建築された昭和二二年一一月六日以降二〇年間であつて、原告の被告に対する前記解除の意思表示はその効力がなく、被告は右賃借権に基づき本件土地を占有するもので、原告の本訴明渡請求はその理由がない。

(五) また仮に、本件土地が地方公共団体たる原告の所有地として、本件土地の賃貸借につき原告主張の如き期間の制限があるとしても、原告の市民体育館は既に建設され、原告は本件土地の返還を求める必要性は存しないのであるから右必要性を前提とする原告の被告に対する本件賃貸借契約解除の意思表示は無効であるし、同様の理由により、原告の、右賃貸借の期間満了による契約更新拒絶の意思表示も右更新拒絶につき正当事由を欠くからその効果は生じ得ない。

(六) 仮に然らずとするも被告は借地法に基づき原告に対し、時価相当額の代金をもつて本件建物につき本件において買取請求権を行使する。従つて被告は原告に対し、原告から本件建物の右時価相当額の代金の受領ある迄本件建物につき留置権を行使する。

(七) また仮に右買取請求権が認められないとしても、国有財産の貸付についての国有財産法第一九条、第二四条第二項に規定するように、地方公共団体の所有財産についても、憲法第二九条第一、三項の規定の趣旨から、一旦これについて貸付契約を締結した以上、その期間中に所有者の必要により右契約を解除する場合には、右契約の相手方がこれによつて蒙る損失について補償することを要し、無条件にその明渡を求められないと解するを相当とするから、原告主張の本件土地についての前記貸付契約中の、右補償を必要とせず、被告が無条件に、地上物件を撤去して本件土地を原告に返還をすることを要するとの条項及びこれが根拠となる前記原告の条例中の同趣旨の規定は右憲法の規定の趣旨に反するものとして無効というべく、被告は原告の本件契約の解除により損失を蒙つたから、原告に対しこれが補償を求めるところ、原告はこれをしないで無条件に被告に対し本件土地の返還等を求めるのであるから、かかる請求は失当である。」と主張し、立証(省略)。

理由

原告請求原因事実中、原告が本件土地を含む大和高田市大字高田一四六〇番地溜池一町四反二六歩外堤塘一反六畝二歩を所有し被告が本件建物を昭和三一年一月二七日その所有者泉尾種治より買受け、その所有権を取得し、以後これを所有しその敷地である本件土地を占有している事実は当事者間に争いのない事実である。原告所有の本件土地を含む右土地の性質について、当事者間に争いがあるので、先ず、この点について判断する。

(証拠―省略)並びに弁論の全趣旨とを綜合すれば、

「本件土地を含む前記原告所有の土地は、従来から通称を馬冷池といわれ、従前は専らその水が灌漑用に利用されていたが、原告は昭和二六、七年頃、本件土地を含む略々右土地(池)の全部をもつて市民の公共の利用に供すべく馬冷池公園と称する公園施設を設けることを企図し、その後都市計画法に基づき所定の手続を経て、その旨の都市計画事業の決定がなされ、これにより定められた昭和二七年、同二八年の両執行年度において、右公園設置の都市計画事業が執行され、右完成とともに右公園の公用が開始され、ここに右土地の略々全部は、原告の馬冷池公園の構成物として原告により管理されるに至つた。なお、その後昭和三五年になつて、原告は右公園を構成する右土地(池)を埋立て、その南半分の地に市民体育館を建設することを計画し、所定の手続を経て昭和三六年度に、右土地の略々南半分が埋立てられ、整地せられて同所に面積約一、三三〇平方米の体育館が建設された。」

との事実を認め得る。証人(省略)の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と弁論の全趣旨とに照らして措信し得ず、他に右認定に反する証拠もない。

右認定事実によれば、本件土地を含む右土地の略々全部をもつて原告が適式の手続に則つて、原告の市民の福祉に供すべく「馬冷池公園」として設置し、爾来原告において直接一般市民の利用に供するものとして管理してきたものであるから右土地は遅くとも右公園が設置されて以後は、普通地方公共団体たる原告の所謂普通財産としての用途が変更され、現行の昭和三五年条例第二〇号「大和高田市有財産及び営造物に関する条例」(同条例は昭和三五年六月二六日から施行されるに至つた。なお右条例を以下単に新条例という。)第三条第二項第二号にいう公共用財産たる行政財産、の範疇に属するものとなり、今日に至つているものというべきである。

もつとも、国有財産の分類等について規定した国有財産法第三条に該当する規定は、地方財政法には存せず、地方自治法も普通地方公共団体所有の財産の分類、種類については基本財産等について、同法第二〇八条(なお同法第二条第三項第二二号、第九六条第一項第六号等参照。)の規定を置くほかは、所有財産の取得、処分、管理等の事項を条例で定めることを規定しているに過ぎず(同法第二一三条、第九六条第一項第七号等参照。)原告の右馬冷池公園設置の都市計画事業が完成された昭和二八年当時の「大和高田市有財産の取得管理及び処分に関する条例」(昭和二八年条例第一六号。同年七月七日より施行、その後前記新条例により廃止された。なお、以下右条例を単に旧条例という。)も、その第二条に、「この条例において市有財産とは、市の所有に属する動産、不動産及びその他の財産をいう。」と規定するにとどまり、現行の新条例第三条に規定するように、これを行政財産、財政財産、普通財産と分類し、前二者についてその種類を規定していないが、条例にこのような市有財産の分類がされておらず、その種類も規定されていなくとも、国有財産についての右国有財産法第三条に規定するように、普通地方公共団体の所有財産についても、右地方自治法第二〇八条(なお、同法第二条第三項第二二号、参照。)に規定する財産以外のものを、その使用目的、収益目的等からこれを行政財産と普通財産に分類し、その管理、処分等について別個の取扱をするのが相当であると解せられるのであるから、右認定事実及び地方自治法第二条第二項、第三項第二号の規定の趣旨から、普通地方公共団体たる原告が設置し、管理するに至つた右馬冷池公園の構成部分たる原告所有の前記土地は前段説示の如く、遅くともその設置の時から、原告の普通財産からその行政財産(更に細別すれば公共用財産。)に財産の用途が変更せられ、今日に至つたものというべきこと明らかである。また、前記の如く、本件土地上には、私人たる被告の所有する本件建物が存するが、行政財産はもとよりその性質上原則としてこれに私権を設定することはできないが、それについて条例等に規定がなくとも(なお、現行の新条例第一一条には「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において使用又は収益させる場合のほか、これか貸付けもしくは出資の目的とし、又はこれに私権を設定することができない。」と規定されている。)、その用途又は目的を妨げない限度において私法上の使用権を認めることは許されるものと解せられるから(なお、大審院昭和一六年(オ)第一一六九号、同一七年三月一四日第四民事部判決及び国有財産法第一八条の規定参照)、右公園を構成する原告の行政財産に属する右土地の一部である本件土地は、それが本件建物の敷地であるからといつて、それだけが原告の普通財産となるものではない。なお、昭和三一年法律第七九号都市公園法が公布され、同法は同年政令第二八九号により同年一〇月一五日から施行されるに至つたので、同法附則第二項により、右馬冷池公園は右施行の日において、地方公共団体たる原告が設置する同法第二条にいう都市公園となり、以後同法の適用を受けることになつた。

次に被告の本件土地の使用関係、そして、これにつき借地法が適用されるか否かにつき当事者間に争いがあるので、以下この点について判断する。前記当事者間に争いのない事実と、(証拠―省略)と弁論の全趣旨とを綜合すれば、

「本件建物は、昭和二二年一一月頃古堤辰吉が右馬冷池の略々中央位の東側堤防に接した池底上、即ち本件土地上に角、丸柱を数十本使用して土台を組みその上に建築し、これを所有するに至つたもので(なお、本件建物は、下部はその建築場所の関係上右のように通常の日本家屋と異なるところがあるが、右土台の上は通常の木造亜鉛鋼板葺平屋建の建物で、所謂仮設建物ではない。)、その後同人から大塚静ら、更に細田初子、泉尾種治にと譲渡され、被告は昭和三一年一月二七日右泉尾から本件建物を買受けたのであるが、右建築前は、右池の水面上、本件土地附近の堤防沿いに所謂かき舟が繋留され、その所有者が原告からその水面の使用を認められて右船上で飲食業を営んでいたのであり、また本件建物の建築以後は、その条件は詳らかではないが、原告から代々その所有者が本件土地の使用を認められてきた。そして、被告が本件建物の所有権を取得した事実を知つた原告は、被告にその申込をさせたうえ、当時の原告の旧条例に基づき公入札の形式ではなく、また、原告市議会の同意を得る手続をとらずに、原告市長において昭和三一年四月頃、更めて被告と、原告は本件土地を、被告が建物所有の目的で、期間は同年五月一日から昭和三二年四月三〇日までの一年間、使用料は、地代家賃統制令に準拠し、近傍の土地の地代を考慮して一カ年金五、四三〇円とし、これを前納すること、原告において必要のため返還を命ぜられたときは期間中といえども無償で家屋その他の工作物を撤去しなければならない等の定めで、使用することを承認する旨の契約を結び、以後右契約は一年毎に更新され、最後に昭和三五年四月二〇日更新の結果使用期間は同年五月一日から昭和三六年四月三〇日までの一年間、その他の条件は従前と同様の、従前と同じ契約が両者間に締結された。そして、被告は本件建物において、その取得以来その家族とともに居住し、所轄官庁の許可を受けて料理店業を営み、今日に至つている。」

との事実を認め得る。右各証言と被告本人訊問の結果中いずれも右認定に反する部分は、右認定事実に副う前掲各証言部分と甲第二、第六号証並びに弁論の全趣旨とに照らして容易く措信し得ず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

被告の本件土地の使用関係が少なくとも私法上の契約によるものであることについては当事者間に争いがないから、右使用関係が公法上の行政処分によるものであるか(右馬冷池公園は講学上の概念からいえば、原告の営造物というものであり、また、前記説示の如く、右公園には都市公園法が適用されるところ、所謂都市公園の占有使用についての同法第六条第六条第一項乃至第三項、第八条附則第五項乃至第八項等の規定は公園管理者が営造物使用の特許というべき性質を有する占用の許可により私人にその使用を認めること規定しており、また甲第二号証の形式からのみみれば、原告の特許行為により被告に本件土地の使用が認められたようにも窺える。)或いは私法上の契約によるものであるかについては判断する必要がないが(もつともこの点について附言するならば都市公園法第二二条の規定は存するが同法は必ずしも私法上の契約により私人に都市公園を構成する土地の一部の使用収益を認めることを絶対に排斥するものとも解されない。けだし同法第二二条の本文は「都市公園を構成する土地物件については、私権を行使することがでない。」と規定してはいるが、国有財産法第一八条乃至第二〇条、第二六条の規定における用語例は「貸付」「私権の設定」「使用収益」をそれぞれ区別して用いており、かつ、右各規定を比較検討してみれば、「使用、収益」なる財産の用法は、前二者に比して、いわばその財産に対して行使し得る権利性において一段と弱いもの、換言するならば、財産の所有者に対する拘束力が前二者より緩やかなものであると解せられること及び都市公園法に右規定が置かれたのも都市公園が地方公共団体の営造物公園の性質を有し、これを構成する土地物件がその目的を達成せしめるに必要な限度においてその融通性が制限さるべき公物としての性質を有するが故のことと解されること、とに鑑みれば、右都市公園法第二二条にいう「私権を行使することができない。」とは右土地物件につきその使用者に程度の差こそあれ相当強い使用権能を附与するような、民法にいう地上権を設定したり、これを賃貸し又は使用貸し、或いはこれにつき後二者と略々同様な国有財産法にいう貸付行為をしたり、もしくは同法にいう私権の設定行為をしてはならないことを意味するに止まり、右物件につき以上の使用権原よりも、更に弱い所謂「使用、収益」を認めることまで禁止しているものではないと解するを相当とするからである。また、被告の本件土地の使用は、営造物たる右公園の使用というよりもそれを構成する原告の行政財産――公物たる前記土地の使用というべきである。また、原告の旧条例の財産の管理に関する第三章中第九条乃至第一四条の規定によれば右規定に基づきその財産の使用を認めるということは私法上の契約により私人にその使用を認めるものと解される。ただ、旧条例は行政財産、普通財産の区別をせず、右規定も単に「財産」の管理として規定しているが、その規定の趣旨からみれば、右規定は普通財産につき規定したもので、行政財産については、前記性質に反しない限り右規定が「準用」されるものと解すべきであろう。然しこの解釈は、行政財産について、私法上の契約により私人にその使用を認めることができるとの前記見解の妨げとなるものではない。即ち後記のように、普通財産について「貸付」とある場合、行政財産については一般に「準貸付」となろう。なお、新条例附則第三項によれば旧条例に基づく契約については、新条例施行の昭和三五年六月二六日以降新条例の適用があることになる。右認定の如く、本件土地の使用に関する原被告間の右契約は、原告市長が前記旧条例に基づき被告と締結したものであり、また本件土地は二〇坪以上のものであるところ、右条例第一〇条、第一四条は、一般に原告の財産の貸付(なお、後記のように、行政財産の場合にはその性質上準貸付というべきである。)は、土地にあつては二〇坪以上のものは、原則として公入札に付してなすことを要し、ただ市議会の同意を得たときに限り指名入札に付し、又は随意契約によりなすことを得、一時貸付のみ市長又は教育委員会において適宜これをなし得るものと規定しており、本件契約の締結形式と右条例の管理についての右諸規定、それに本件土地が前記説示の如く普通地方公共団体たる原告の行政財産たる公共用財産に属し、元来それは専ら公共用に供せられる宿命を持つもので、極度にその融通性を制限される性質を有せざるを得ないものであり、この財産の性質上これを私人に使用させることについては前叙の如き制限が存すること及び地方公共団体の所有財産の処分、管理に関する地方自治法第二一三条、地方財政法第八条等の規定の趣旨に徴すれば、少なくともその行政財産の管理については、憲法を始め、右各法及びその関係法令に反しない限り、地方公共団体の右管理について規定した条例が、民法その他の一般私法に優先し、右条例は、いわば特別法として、右私法の諸規定は右条例の制限の下に変更して適用されるものと解せられるところ、原告の右旧条例の管理についての第三章の諸規定は、財産の貸付期間、その更新解除等について、民法、借地法の諸規定と異なる規定を置いていること、新条例附則第三項は「この条例施行前にした市有財産の交換、売払譲与及び出資並びに貸付、私権の設定その他使用又は収益をさせる行為はこの条例の規定によつてなしたものとみなす。」と規定しているが同条例の財産の管理についての第三章の諸規定も、旧条例同様、民法、借地法の諸規定と異なる規定を置いていることとの諸点に鑑みれば、本件土地の使用についての原被告間の右契約は、建物の所有を目的とするものであつても、民法にいう賃貸借と異なり、借地権の存続期間、その更新、建物の買取請求権等についての借地法第二条、第四条乃至第八条、第一〇条の各規定の適用はないものといわざるを得ない。前叙のように、原告の新条例は、その財産を行政財産、財政財産、普通財産と分類し、国有財産の管理についての国有財産法第一八条乃至第二〇条の規定にならつて、同条例第一三条第一項は、「普通財産は第一五条から第二二条までの規定により貸付け、又はこれに私権を設定することができる。」と規定し、普通財産を私人に使用させる場合の一つに「貸付」なる用語を使用し、一方行政財産についての同条例第一一条は「行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度において使用又は収益させる場合のほか、これを貸付けもしくは出資の目的とし、又はこれに私権を設定することができない。」と、また第一二条は、「第一六条から第二一条までの規定は、行政財産を使用又は収益させる場合にこれを準用する。」と規定して、行政財産を私人に使用させる場合は、「使用」「収益」なる用語を用い、これを区別しているが、本件契約はこの区別に準拠すれば、後者即ち貸付(契約)以外の方法により地方公共団体たる原告が、被告に使用料(勿論私法上のもの。)を徴して本件土地の使用を承認するという債権関係を両者間に設定することを内容とする一種の私法上の無名契約、いうなれば準貸付(契約)(国有財産法第二六条参照。)というべきものである。なお、右認定の如く本件建物は仮設建物でなく、むしろ半永久的なものであること、昭和三一年以来原被告間の前記契約は使用期間の一年が経過する毎に、同一条件で更新されてきたこと等に鑑みれば、両者間には、原告は右公園の目的に支障がなくその他公益上の必要性がない限りは、右使用期間の満了に際し、右契約を更新するものとの了解があつたというべきであろう。

さて前説示の如く、原被告間の本件契約には、借地権の存続期間についての借地法の適用はないのであるから、その適用のあることを前提とする被告の使用期間についの「四」の主張はその理由がないことは明らかである。

また前記認定のように、本件契約中には、「原告において必要のため返還を命ぜられたときは、期間中といえども無償で家屋その他の工作物を撤去しなければならない。」との解除権留保条項が存するところ、(なお、右契約成立当時の原告の旧条例第一一条は、「財産の貸付については使用目的、貸付期間、貸付料並びに貸付料納付の時期及び方法の外、左に掲げる事項を契約しなければならない。」とし、その第一号に、「貸付期間中においても公用若しくは公共用に供するため必要を生じたときは、契約を解除し、六カ月以内にこれを返還させることができること。」と規定し、また、その附則第三項により施行の昭和三五年六月二六日以降本件契約にも適用のある現行の新条例第一九条第一項は、普通財産の貸付につき――なお、右条項は行政財産の管理についての同条例第一二条において準用されている。――「普通財産を貸し付けた場合において、その貸付期間中に公共用、公用又は市の企業若しくは公益事業の用に供するため必要が生じたときは、その契約を解除することができる。」と規定している。国有財産法第二四条第一項、第一九条参照。)右解除権留保の条項(右新条例の規定も同様。)も原告において右契約を解除し、被告に本件土地の返還を求める公益上の必要性が客観的にも存すれば有効と解するを相当とするが、原告が右契約条項に基づき昭和三五年一一月七日附の内容証明郵便をもつて被告に対し、本件土地についての右契約を解除する旨通知し、本件建物の撤去方を要求し、右書面はその頃被告に送達された事実は当事者に争いなきも、被告は、右解除の意思表示は、原告において本件土地の返還を求める必要性が存しないから、その効力を生じないと争うので、この点について、次に判断する。

右当事者間に争いのない事実と(証拠―省略)を綜合すれば、

「原告が被告に対し右解約の意思表示をなし、本件建物の収去と本件土地の返還を求めるに至つたのは、昭和三五年に、原告の昭和三六年度事業として、原告所有の前記馬冷池を埋立て、本件土地の西南部に原告の市民の保健体育施設として、市民体育館を建設し、本件土地附近も埋立て、右体育館に附属する広場として、緑地帯や駐車場を設置し、更に右体育館の東側の排水路を設けることなどが立案され、市議会においてその旨の議決がなされたからであつて前記の如く市民体育館は予定通り建設されたが、本件建物は右体育館の東北約九米の地点に存し、また、右体育館の東の旧馬冷池の堤防の端に沿つて南北に排水路が設置され、その北端は本件建物の東南端附近まで延びており、当初の原告の計画では右排水路は更に北に至るものとされていたが、本件建物が存するため未完成の状態にあり、更に右埋立工事も本件建物の附近は同様完了されていない。而して本件土地の位置関係からいつて、その附近に排水路を設け、緑地帯や駐車場を設置することは合理的な計画であり、公園の美観上の点からも好都合である。」

との事実を認め得、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

そして右認定事実によれば右解約の意思表示がなされた当時において原告が被告との本件契約を解除し、被告に本件建物の収去と本件土地の返還を求めることについては、客観的にも相当な公益上の必要性が存したものということができるので、(現在においても、右返還を求める必要性は存する。)本件契約は、原告の被告に対する右内容証明郵便による解除の意思表示の到達により昭和三五年一一月七日頃解除されるに至つたものといわざるを得ない。

ところで、被告は借地法に基づき原告に対し本訴において本件建物につき時価相当額の代金で買取請求権を行使し、原告から右代金の支払を受けるまで本件建物について留置権を行使する旨主張するが、前記説示の如く、本件土地についての原被告間の本件契約には買取請求権に関する借地法の規定は適用されないのであるから、右主張もまたその理由がない。

而して、被告は更に、原被告間の本件契約期間中に、所有者たる原告の必要により右契約を解除する場合には、憲法第二九条第一項、第三項の規定の趣旨から、原告は、その契約の相手方たる被告に対し、被告が右解除によつて蒙る損失につき、補償することを要するのであり、従つて、かかる場合に原告において右補償を必要とせず、被告が無条件に地上物件を撤去して本件土地を原告に返還することを要するとの前記契約条項及びこれが根拠となる原告の条例中の同趣旨の規定は、右憲法の規定の趣旨に反するものとして無効であり、被告は原告の本件契約の解除により損失を蒙つたから原告に対しこれが補償を求めるところ、原告はこれをしないで無条件に被告に対し本件土地の返還を求めるから、かかる請求は失当である旨主張する。

原告は被告の右損失を争つているところ、被告において具体的にその補償を求める損失について主張、立証していないから、この点において被告の右主張はとり得ないが、原告は被告にその主張の如き損失を生じても補償の要なしと主張しているので、以下この問題についての当裁判所の判断を示すことにする。

なる程、本件契約の成立当時の原告の旧条例第一一条第二号には、前記同条第一号の規定を受けて、「前号の場合において借受人がこれにより生じた損害につき賠償を求めることができないこと。市は既納の貸付料に過納があるときは、月割又は日割計算で還付しなければならないこと。」と規定し(なお、現行の普通財産の管理に関する新条例第一九条第二項は、前記同条第一項の規定に続き、「前項の規定により契約を解除した場合においては、借受人はこれによつて生じた損失につきその補償を求めることができない。」と定めている。)、前記認定のように原被告間の本件契約中には、「原告において必要のため返還を命ぜられたときは、期間中といえども無償で家屋その他の工作物を撤去しなければならない。」との条項が存する。一方、地方自治法、地方財政法等の地方公共団体の財産の管理については、その旨の規定は存しないが、国有財産について、国有財産法はその普通財産の貸付につき第二四条第一項に、「普通財産を貸し付けた場合において、その貸付期間中に国又は公共団体において公共用、公用又は国の企業若しくは公益事業の用に供するため必要を生じたときは、当該財産を所管する各省各庁の長は、その契約を解除することができる。」と規定し、第二項に、「前項の規定により契約を解除した場合においては、借受人は、これに因つて生じた損失につき当該財産を所管する各省各庁の長に対し、その補償を求めることができる。」と定め、同法第二五条はその手続を明らかにし、これらの規定は準貸付についての同法第二六条において、また、行政財産の使用、収益についての同法第一九条において、それぞれ準用されている。そして財産権の保護について規定した憲法第二九条第一項(「財産権はこれを侵してはならない。」)、第三項(「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる。」)の規定の精神と、右国有財産法の諸規定の趣旨及び、それが貸付であると否とを問わず、私法上の契約により地方公共団体の所有財産について、その使用が認められた場合、その使用権は私法上の財産権と解せられること、とに鑑みれば、本件のように地方公共団体所有の財産(行政財産たると普通財産であるとを問わない。)について、一旦私法上の契約により私人にその使用を認めた場合(なお、公法上の特許行為により、使用が許された場合でも同様と解する。都市公園法第一二条、道路法第七二条等参照。)、たとえ、使用者の責に帰すべき事由が存せずともその契約を解除するだけの公益上の必要が存し、右契約の解除が許されるときでも、右解除によつて相手方に生ずる財産上の損失については、法律上の根拠規定の有無に拘らず、所謂公用収用の場合に準じ、正当な補償をすることを要し、ただ、相手方の、地方公共団体の右補償義務の免除についての予めの同意が存するときに限つて、右義務が免除されるものと解するを相当とする。(なお、最高裁判所昭和二九年(オ)第五四二号、昭和三三年四月九日判決。最高民集一二巻五号七一七頁参照。)従つて、この見地からすれば、本件においては、前叙のように、原告の右補償義務の免除は、原被告間の本件契約の一条項として挿入され、従つて被告において予めその同意があつたものというべきであるから、この点から考えても、右被告の損失補償請求権に関する主張は理由がない。(もつとも、前記原告の新条例第一九条第二項のように、このような場合、相手方の同意がなくとも原告は右補償を免れ得る趣旨の規定は、右憲法の規定の趣旨からいつて、問題があろう。)

そうだとすれば、本件契約の解除により、被告に対し、被告所有の本件建物の収去と、本件土地の返還を求める原告の本訴請求は、結局、爾余の点を判断するまでもなく、その理由があるので、これを正当として認容し、なお、仮執行の宣言を付することは本件には適切でないので、これを付さないこととし、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

葛城簡易裁判所

裁判官 村 瀬 鎮 雄

目 録

大和高田市大字高田一、四六〇番地溜池一町四反二六歩外堤塘一反六畝二歩のうち、右溜池中東部中間二七坪五合地上、同所家屋番号九三六番

一、木造亜鉛板葺平家建居宅  一棟

建 坪 二一坪六合

同所

一、溜池一町四反二六歩外堤塘一反六畝二歩のうち右建物の敷地二七坪五合            以上

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